「もう、帰らないと」
「そうか。何かあるのか?」
「…えっと、あの、実は、観たいアニメがあって、あと30分くらいしたら始まるんです」
「そりゃ大変だ」
「…」
「早く帰ろう」
「アニメ、観るんですか?」
「全く観ない」
「じゃあ何でそんなに急いでくれるんですか?」
「俺には分からんが、お前にとっては大切なものなんだろ?」
「…はい。そうです」
「だったら、急ぐべきだろう。俺にだってお前には分からない大切なものはいくつかある。行こう。店員さん、レジ来て!」
「かしこまりましたあ〜!!少々、お待ちくださいませえ〜!!」
おばちゃん店員が大きなケツを振りながらやって来る。
「できれば、あんたじゃない方がいいんだが」
小声でつぶやいた。
「聞こえますよ」
「それはまずい」
おばちゃん相手に会計を済ませる。
店を出ると、店の前に中学生らしい3人組がいた。
「あ…」
急に、少年が身構え始めた。
「知り合いか?」
「学校の…」
「そうか」
少年は下を向いたまま、顔を上げない。
「堂々としてろ」
3人組の前を通るとき、さすがに3人は少年の存在に気づいた。
「あれ、お前、川上じゃん!学校来ないで何してんだよ?」
少年は、何も言わない。
「クリームパン食って、アニメ観てんだよ。悪いか?」
「だ、誰だよ、おっさん」
「こいつのダチさ。なあ」
「…う、うん」
「お前ら、あそこのクリームパン食ったことあんのか?」
「ないよ」
「人生損してんな」
「なっ…!」
「アニメ観てんのかよ?」
「アニメなんか観てねえよ」
「ぶ!アニメも観てないのか。つまらん人生だな。おい、行こうぜ」
少年を連れて、その場を離れる。
しばらくすると、少年が口を開いた。
「ねえ」
「何だ」
「あそこのクリームパン、食べたことあるの?」
「ない」
「アニメ、観てないよね?」
「観てない」
少年が笑う。
「なのに、あんなこと言ったの?」
「そうだ」
「変なの」
「いいか。一つ、教えといてやる」
「…」
「お前の中に、もう一人のお前がいると思え」
「どういうこと?」
「お前の中のお前は、いつだってお前の味方だ。お前のことをいつも応援してる。健気にな。そして、いつもああしたい、こうしたいとお前にメッセージを送っている」
「…」
「お前は、そいつをしっかりと守ってやらなきゃならん。そいつの言うことに耳を傾けてやらなきゃならん。なぜなら、それはお前自身だからだ。世界に一人しかいないお前自身だからだ。
お前はバカにされるような存在じゃない。自分で自分をバカしなくていい。何かができるできないとか、そういうものを超えた価値がお前にはある。だから、お前のことを、お前自身がしっかりと守ってやれ」
「…」
「お前はこれからも、お前と共に生きていく。自分自身が一生のパートナーなんだ。その一生のパートナーに、誇りを持てよ」
少年が何か言いかけたとき、電話が鳴った。
「やばい」
「彼女?」
「そうだ」
「怒ってるんじゃないですか?」
「まあ、確実に怒ってる。食べ物にはうるさいんだ。だが、大丈夫だ」
「本当?」
「本当だ。俺は、もう行く。またな」
「うん」
電話に出ると、案の定、クリームパンまだ!?と、どやされた。
ただ、予想通り、事情を説明することで納得してくれた。
しかし、想定外だったのは、
近くに行列のできるケーキ屋があるという情報を伝えられたことだ。
<いけじゅんBAR、まもなく第二回配信!>
いけじゅんBAR、まもなく第二回を配信します。
相談を募集しているので、相談したいこと、いけじゅんBARで取り上げてほしいことがあれば、
mail@junmethod.com
まで。
第一回はこちら↓
いけじゅんBAR「自己否定をやめ、自分に自信と誇りを取り戻すためにどうするか?」
ぜひお越しください。
「人生で大切なこと」をストーリー形式で面白く読める「学べる物語」記事はこちらから全て読めます。
どうしても達成したいことがある、恋愛を成就させたい、自信を持ちたい、自分が望むライフスタイルを手に入れたいという、自分の可能性を信じる人に向けた限定のメルマガも書いています。無料なのでよければ。
大好評!最新刊『毎日15分自分と向き合えば、「欲しい結果」がついてくる』