人を動かすのは、「具体的希望」である

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<この物語はフィクションです>

 

久しぶりに、いつものバーに来ていた。

客は、男が一人と、カップルが一組。そして、俺と、俺の隣に座っている女。

今日の相談者は、珍しく女だった。年齢は23歳。

弁護士を目指して、司法試験の勉強に励んでいるらしい。

だが、勉強が手につかなくなったということで悩んでいる。

「それは、いつから?」

「ここ2週間くらい、ずっとそんな感じです…」

「そうか。俺は、法律の勉強をしているわけじゃない。だから、具体的な法律の相談には乗れん」

「はい」

「だが、思い当たることがあるから、いくつか質問していく。いいか?」

「大丈夫です」

「合格する自信は?」

「…ありません」

「なぜ?」

「…なぜ?なぜなんでしょう。よく分かりません。達成してきたことがないからでしょうか…」

「試験まで、あとどれくらいある?」

「あと、8ヶ月くらいはあります」

「その間に、やるべきことは決まっているのか?」

「一応、決まっています」

「それをやれば合格できるという思いはあるか?」

「多分、いけるんじゃないかなとは思っていますが、そこまでの自信はありません…」

「そこだな」

「え?」

「いいか。8ヶ月もの長期間に渡って地道に勉強していくために必要なものはなんだと思う?」

「分かりません」

「具体的希望だよ」

「具体的希望?」

「例えば、俺は今、作家として小説を書いている。しかし、書き始めた当初は本を出せるとは思っていなかった。

暗闇の中を歩いているようなものだ。この道の先に、光があるかどうかなどわからん。

この道がどこに続いているかもわからん。

そんな道を自信を持って歩いていくのは、なかなか難しい。わかるな?」

「はい」

「俺はよく、作家のエッセイを読んだ。自分を励ますためだ。俺は俺を励ますために、自分と似たような境遇の人の言葉を噛み締めていた。

ただ、エッセイを読んでいた目的は、それだけではない。

具体的に何をどうすれば作家になれるのか。どのくらいの量をこなせばいいのか。作家になるような人間は、何をどのくらいやっているのか知りたかったんだ。

当時の俺は、具体的なことを知らなさすぎた。

だから、何をやっていいか分からなかったんだ。

そのときの俺の心はいつも揺れ動き、不安だった。

しかし、何をどのくらいやればいいのか分かったときから、俺の心に火がついた。

これをやればいい、これを突き詰めればいい。

そう思った途端、視界はクリアになり、執筆に打ち込めるようになった。

もちろん、作家になる道など、あってないようなものだ。

正式なルートがあるわけではない。

だが、「これだけやれば大丈夫だ」と思えるものが具体的にわかったことは大きかった。

その具体的なやるべきことをこなす日々は、悪くなかったよ。

確実に、自分は自分の理想に近づいているという感覚があったからな。

あんたに、その感覚はあるか?」

「ありません…」

「それは、あんたの能力やヤル気云々以前の問題なんだ。

あんたは具体的なことを知らなさすぎる。

もちろん試験で何が出るかなど分からんだろう。

だが、それでも、日々これだけのことをやればいい、という思いを持って毎日を過ごすべきなんだ。

でないと、いつまでもフラフラした日々になる。

そのために、もっと具体的になることだな。

具体的な希望を持つことだ。

今の自分の実力を直視する。試験の難易度を直視する。

そうやって現実を直視すればするほどに、自分が何をすべきかが見えて来る。

自分が何をすべきか見えているということは、

自分はそれをやれば合格できると思えるということだ。

その希望が具体的になればなるほど、勉強に打ち込めるようになる」

「でも、現実を直視するのが怖いんです…」

「だろうな。だから、具体的になれんのだ。

しかし、それこそが大きな落とし穴であり、あんたが大きな勘違いをしている点だ」

「大きな勘違い?」

「あんたは今、具体的になることに絶望を感じているのかもしれないが、事実は逆だ。

具体的になることは、希望なんだ」

「具体的になることが、希望?」

「具体的になれないからあんたはフラフラしてしまうのであって、具体的になったとき、人は本当の意味で勉強に打ち込むことができる。

これだけのことを、こういうやり方でやれば、自分は大丈夫だ。

その感覚こそが自分を行動に駆り立てる。

そして、その感覚こそが暗闇の先に見える光となって、自分を支え続けるんだ」

「なるほど…」

「具体的になれない人間は、いつまでも不安を抱え続ける。

いいか。

現実を直視することは絶望ではない。

現実を直視することこそが、希望なんだ。

現実を直視して具体的になればなるほど、あんたはヤル気になれるんだよ」

「そうか…私は現実から逃げていたがゆえに、苦しかったんですね…」

「現実から目を背けたところで、不安は消えない。どうせそれはまたやってくる。

それはあんたが一番よくわかっているだろう?

現実を直視して、やることをやっていたら、勝手に、あとは成るように成るさと天に委ねる心になっている。

これは俺の勝手な経験からだが、そういう心境になったときこそ、うまくいくことが多かったな」

「ありがとうございます、なんだか分かった気がします」

そこまで話すと、マスターが、何か飲まれますか、と声をかけてきた。

「今日は、やけに喋っちまった。なあ、マスター」

「ですね。疲れたのでは?今日はたくさん飲んでください」

「こうやって、酒を売り込んでくるんだよ、マスターは」

「仲が良いんですね」

「良くない。俺は酒がそこまで強くない。なのに飲ませてくる、嫌なマスターだ」

「でも、いつもこの店にいるって噂が」

「もう、相談は終わりだろう?だったら、帰って勉強するんだな」

「シャイなんですね」

「うるさい。さっさと勉強しな」

「分かりました。じゃあ、私はこれで。あ、これを。マスターさん、お釣りはいりません。二人で飲んでください」

カウンターに、一万円札が差し出された。

「おい」

一万円札を返そうとしたが、すでに女は席を立ち、さっさと店を出てしまった。

「困ったな」

「感謝の気持ちなんじゃないですか」

「そういうつもりじゃないんだが」

「受け取ることも、大事なことですよ」

「…」

「何を、飲まれますか?」

「今日も、帰れそうにないな」

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