書けない原稿と、書きたいという思い

スクリーンショット(2015-05-24 10.23.38)

<この物語はフィクションです>

「今日は、やけに静かだな」

「そういう日もあります」

「今日はゆっくりと飲ませてもらおうか。相談になど乗りたい気分ではない」

「どうぞ。あ、そういえば」

「何だ」

「書けたんですか、原稿は」

「書けているなら、連日この店に来たりはしない」

「うちは、書けない日が続いた方が助かるということですね」

「そうなる」

「最初、小説を書いていると聞いたときは、なるほどなと思いました」

「いつもは驚かれるがな」

「繊細な心をお持ちなので」

「その繊細さが見抜けるくらい、あんたも繊細なんだろう」

「いつ頃から書いているので?」

「3年ほど前だ。まあ、大して売れもしていない。売れもしないが、書きたいという気持ちが消えたことはないな。時々、なぜ書く、と考えるが、考えて分かるのは、考えても無駄だということだけだ」

「一旦複雑さの中に入った人が、単純さに戻ってくる様は、良いものです」

「いきなり難しいことを言う。

複雑になる必要があったのか、と考えてしまうこともあるがな」

「複雑さを経て単純さに至った人間は、強いんですよ」

「そんなもんかな」

「そうだと思います」

「あんたは、面白い人だ」

「お互い様です」

カランカラン。店のドアが開く音がした。

「…誰か来たようだ」

見かけない男が入ってきた。キョロキョロと店内を見渡し、店内に私しかいないことが分かると、こちらに向かってくる。

「ここに、相談に乗ってくれる人がいるって聞いたんですけど、いますか?」

「さあ、今日は来てないようだが。残念だったな」

「そうですか、残念です」

「そういう日もある」

「出直します」

「それがいい」

スクリーンショット(2015-05-24 10.23.38)

 

メルマガも好評なので、良ければ。

 

池田潤オフィシャルメルマガ登録はこちらから。