怖れの9割は幻想で出来ている

スクリーンショット(2015-06-12 19.49.52)

<この物語はフィクションです>

とにかく、酒が飲みたい気分だった。

そのバーに行くのは二度目。

一度目に行ったとき、気になる男がいた。

カウンターに座っていた、どことなく凄みのある男。

その晩、一人の男がカウンターに座っていた男に絡んでいった。何かを喚き立て、怒ったように店を出て行ったが、そのときも、その男に慌てた様子はなかった。

その様子が、なぜか心に残っていた。

今日も男はカウンターに座っていた。マスターと何やら話している。近くに女性も座っているようだった。

話しかけると、男は面倒くさそうに返事をした。

「何だ」

「特に何かってわけじゃないんですが。一度話してみたいと思ったので」

「そうか」

「いつも一人で飲んでいるのですか?」

「そうだが、最近は相談なんかを持ちかけられることも増えてな。一人で飲むことも減ってきた」

「相談、ですか」

「ああ」

「私も、相談しようかな」

「相談したいことがあるわけでもないのに、無理にするもんじゃない」

「ないわけじゃ、ないんですよ」

「女にでも振られたか」

「振られるところまで、いっていません」

「傷つくことすらできないか」

「…はい」

「そうか」

「どうすればいいんでしょうか」

「…。ちょっと待て。おい、そこの」

男は急に、横に座り、一人で飲んでいた女性に声をかけた。

「何、私?」

「そうだ。ここにいる男が、君に惚れたと言っている」

男は、私を指差しながら、女性に告げた。

「ちょ、そんなこと言ってないじゃないですか!」

「照れるな」

「照れているわけじゃありません!そんなこと言っていない!」

「悪いな、こいつはシャイなんだ。でも、いい奴なんだぜ。なあ、どうだ、こいつ」

「急に言われても。話してもないし」

「これから話せばいい」

「嫌よ、あたし。そういうの」

「ダメか?」

「…そうね。ダメ」

「分かったよ。ありがとう」

なぜか、自分が振られたことになっている。

「おい、残念だったな。振られたぞ」

「振られたも何も、私は別に好きだったわけじゃない」

「しかし、チラチラ見ていたじゃないか。キレイだと、思っていたんだろう。惚れたという言葉も嘘ではない」

「それは…」

「だがな。お前は振られたんだ。どうだ、振られた気持ちは。傷ついたか」

「それなりには…」

「立ち直れないか」

「そこまでは」

「振られた自分は、みじめか」

「そんなことはありません」

「そうだろう」

「いつもなら、伝えることすらありませんから」

「怖れていたことが実際に起こったとしても、そんなもんだ。そんなものでしかないものを怖れて、俺たちは何もできないでいる」

「それを伝えるために?」

「言葉で伝えるのも良いが、やってみた方が早いからな。まあ、伝えるためというよりも、面白がってやってみただけさ。案外、楽しめたな」

「ひどい人だ」

「そうさ。いい人だとでも思ったか」

「腹が立つな。でも、同時に、何かを教わった気もします」

「教えたつもりはない。ただ俺が楽しみたかっただけだ」

「また、来ますよ。このバーに」

「好きにすればいい」

「次は俺が、全く同じことをしてやりますよ」

「やられる前に、お前など無視して口説いてるよ」

スクリーンショット(2015-06-12 19.49.52)

 

大好評の「物語」記事はこちらから全て読めます。

 

 

新刊『毎日15分自分と向き合えば、「欲しい結果」がついてくる』の出版記念トークライブを東京で行います。

本日の23時59分までの受付。

:6月14日(日)東京会場トークライブお申し込みはこちら

もし上記ページで上手く申し込みができない場合は、こちらの申し込みフォームからお願いします。当日払いで参加できます。

東京出版記念トークライブ申し込みフォーム(当日お支払い)

 

メルマガ読者さんが最近増えてきています。好評なので良ければ。

池田潤オフィシャルメルマガ登録はこちらから。