「孤独な男」と「群れる男たち」と「今を生きる女」の話

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<この物語はフィクションです>

待ち合わせのために、喫茶店に来ていた。相手はまだ来ていない。少しでも執筆中の小説の構想を練ろうと、メモ帳を取り出す。

目の前の席には、4人組の男たちがいた。全員、24〜25歳くらいだろうか。

何が楽しくて男4人で喫茶店などに来るのか分からないが、とにかく静かにしておいてくれることを願っていた。

しかし、そんな願いが叶うはずもなく、男たちは大きな笑い声をあげながら喋り続ける。

聞きたくもない会話の内容が、嫌でも聞こえてくる。ほとんど、愚痴か誰かの噂話、それか、悪口といったところだ。

こういう4人組は、うだつが上がらないまま終わる。こうやって4人で集まって愚痴を言い合うことでエネルギーを使い切ってしまうのだ。

話すことで満足して、現実に何かをしようという気が湧いて来なくなる。4人でいる安心感もある。

現実が動いていないことに苛立ちや焦りを感じたら、また集まる。とりあえず集まって喋って苛立ちを発散し、また何もしない毎日に戻っていくのだ。

そんなことを考えながら、ウエイトレスが運んできたコーヒーに口をつけた。

そのウエイトレスが、そのまま4人組の男たちの席にドリンクを運んで行く。

するとなぜか、その席に微妙な緊張が走った。

ウエイトレスが去った後、男たちはごちゃごちゃと騒ぎ始める。どうやら、あのウエイトレスを気に入った男がいるらしかった。

チラチラと伺うようにウエイトレスを見る。

その姿を見て惚れる女などいないだろうが、本人たちはそんなことにまで頭は回っていないようだった。

そのウエイトレスが横を通ると、なぜか4人共黙り、緊張が走る。ウエイトレスが去ると、笑いながら話し始める。そんなことを何度も繰り返す。

その様子を見て、小説のネタ程度にはなるかと思って抱いていた4人組の男たちに対するほんの少しの興味も、失せた。

残ったコーヒーを一気に飲み、喫茶店を出る。

出たところで1分ほど待つと、ようやく相手が来た。

「待った?」

「それなりに」

「店の中で待っててくれれば良かったのに。暑いでしょう」

「暑い方がマシだったんでな」

「マシってどういうこと?」

「何でもない。ところで、何が食べたい?」

「うーん、あっさりしたものがいいかな」

「じゃ、ステーキにしよう」

「ちょっと!」

「冗談だ。とりあえず、行こうか」

喫茶店の駐車場に停めてあった車に乗り込み、走らせる。

疲れが溜まっていた。肉体的な疲れというよりも、精神的な疲れだ。連日頭を使いつづけると、ガソリンが切れたかのように何も考えたくなくなるときが来る。

その様子は、傍目から見ていてもわかるはずだ。

こういうとき、自分から難しい話はしようと思わないし、向こうも難しい話はしてこない。こちらのことをよく分かっているのだろう。話すのは、他愛もない話が多かった。

難しい話をしようと思えばできるだけの頭を持っているにも関わらず、意図的にそれを見せようとしないところに、一段深い知性のようなものを感じていた。

もしかすると、そこに惚れているのかもしれない。

男はプライドが高い奴が多い。私も含めて。

そういう男と張り合ったところで良いことなどほとんどなく、たとえ張り合いに勝利したとしても、得られるものなど何もない。そもそも勝負をしかけた時点で、どっちみち敗北なのだ。

本当の勝利とは、勝負をしないことから生まれる。

そういう認識を持った上で、無理に自分を主張しようとしないのではないか、と思っていた。

何も考えていないようで、よく考えている。

「ねえ、さっきから何考えてるの?」

「何も」

「嘘」

「本当だ」

「まあいいけど。ところで、結局何食べるの?」

「トンカツ」

「帰る!」

「冗談。お前の食いたいものを、食おう」

10分ほど車を走らせ、コインパーキングに駐車し、様々なレストランが並ぶ通りを二人で歩いていた。

すると、急に女が立ち止まった。

ステーキ屋の前だった。

「まさか」と思ったが、20分後には席に座ってステーキが焼けるのを待っていた。

「人生は今この瞬間しかないのよ」

発せられたその言葉がそれほど薄っぺらく聞こえたのは、そのときが初めてだった。

 

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