<この物語はフィクションです>
「僕は一応、⚪︎⚪︎商社の部長をやっていてね…」
「あら、すごいですね」
隣の席の会話が、聞こえてくる。
男女が、レストランでディナー。
こちらといえば、相手の急なキャンセルによって、一人でディナーを楽しんでいる。
それもまた、悪くはなかった。
だが、聞きたくもない隣の会話が、聞こえてしまう。
男というものは、自分がいかに優れているかということを示したがるものだ。
だから、優れていると示せる「何か」が、欲しいと思う。
それが手に入らなければ、劣等感を持ち、卑屈になる。
そして、その卑屈な姿勢が、ありとあらゆるものを遠ざけていく。
男と女の世界が面白いのは、優れているとアピールできるものを持っている男が、必ずしも狙っている女性を口説けるとは限らないことだ。
女性は、アピールできるものに自信を持っているのか、「自分」に自信を持っているのかを、無意識に見分けられるのかもしれなかった。
ただ、アピールできるものを持っていないことによって卑屈になるような男に、可能性はない。
卑屈になるということ自体、自分に対する愛を見失っているということでもある。
だから、他人を愛することも、難しい。
漫画のように、放っておいても美少女が話しかけてきて好きになってくれることなど、現実世界では起こらない。
まあ、そんなことは思っていても口にしないでいる方が、無闇に敵を作ることなく生きていけるのだろうが。
「じゃあ、今日はもう、帰りますね」
「…、あ、ああ。送っていくよ」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
隣の席は、予想通りの展開を見せた。
予想通りでなかった人物がいるとすれば、部長様だけだろう。
⚪︎⚪︎商社の部長にまでなった隣の男は、さぞかし仕事ができるはずだった。
そして、そんな自分に自信を持っているはずだった。
なのに、と思う。
それと同時に、やはり、とも思う。
男と女の世界、自信とは何なのか、魅力とは何なのか。
次に書く小説の中で問うてみたいと思うテーマだった。
隣で、部長様が一人ワインを飲み始めている。
そんな部長様に、心の中でだけ、感謝した。
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