「…」
「おいマスター、何だ、あの陰気くさい小僧は」
「さあ。最近来てますが、いつもあんな感じですね」
「こっちまで陰気になっちまいそうだ。おい、小僧」
「……何ですか?」
「その陰気な空気をどっかにやるか、店を出るかしてくれねえか」
「あなた、相談に乗ってくれる方ですよね?」
「自分でそう名乗った覚えはないがな」
「俺は今、絶望しているんです」
「知らん。出てけ。ここは俺にとって大事な居場所なんだよ」
「もう少し優しくしてもいいのでは?」
「お前みたいな陰気くさい男にやる、薄っぺらい優しさは持ち合わせていない」
「俺は今、職場の人間関係が上手くいっていないんですよ」
「だろうな」
「なぜ上手くいかないかもよく分かりません」
「お前を見ていて思うことを言おうか?」
「ぜひ」
「お前の中には、お前しかいないんだよ。自分のことばかり考えすぎだ」
「どういうことですか?」
「愛がない、ってことだよ」
「愛なんて、分かりませんね」
「自分がないからだ。自分が確立できてないから、自分のことばかりになる」
「自分のことばかり考えて、何が悪いんですか」
「悪くはない。ただお前が職場の人間関係が上手くいかないと言うから、言ったまでだ。
人間関係が上手くいっていないのも、悪いとは言っていない。
ただ、その状況を望まないというのなら、何かを変える必要があるというだけのことだろう」
「…」
「マスター、今日は帰るよ」
「早いですね」
「帰って観たい映画があるんでね。じゃあな、小僧」
「…」
「悪い人じゃないんですよ。言葉は悪いですが」
「何となく、分かります」
「分かるなら、あなたは大丈夫です」
メルマガも好評なので、良ければ。