<この物語はフィクションです>
相談にやって来た男は、好きだった女に貢ぎに貢いでいた。総額は300万円を超えるらしい。
しかし、総額300万円を超え、金銭的限界を迎えた頃、女は去って行ったという。
よくある話だ。
よくある話だが、まさか自分がそういう風になるとは思っていなかったのだろう。ひどく落ち込んでいる。
しかし、それもまた、よくある話ではある。
「落ち込んでるのか」
「はい。もっと金を稼げる男だったら良かったのに…」
「バカか、お前は」
「え?」
「いくら稼いでいるかとか、いくら貢げるかとか、そういう問題じゃない」
「じゃあ、私はどうしたら良かったんですか?」
「貢がなかったら良かったんだ」
「え、でも、そんなことしたら振られてしまうじゃないですか!」
「そこが根本的に違うと言っている。貢ぐから振られるのであって、貢がなければ振られないんだよ。いや、根本が変われば、そもそもその女に惚れないか」
「そんなわけないじゃないですか!私は実際、貢いでいたときは振られなかったし、貢げなくなったときに振られてしまったんですよ!全く逆です!」
そうか。そこから話す必要があるのか。
一旦落ち着いて、ビールを注文する。
「じゃあ、あなたは女性にプレゼントをしないんですか?」
「するよ。したいときにする。ありったけのプレゼントをな。でもな、それで女の気を惹こうっていう魂胆はない。いや、全くないとは言わないが、あったとしても、お前ほど大きなものじゃない。
お前には、気を惹こうっていう魂胆しかないんだよ。その魂胆が全部相手に伝わってるんだ」
「気を惹こうっていう魂胆…」
「お前は今、自分を見失っている」
「……」
「貢がなくたって、お前は一人の男として愛される」
「そんなわけ…」
「そんなわけないって思うんだろう。そうだよな。それも仕方ない。だが、真実は違う。
貢がなくても、お前は愛される価値があるんだよ。
問題は、お前がそう思っているかどうかだ」
「でも、俺には貢ぐことくらいしかできることがないんです。イケメンでもないし、何か特技があるわけでもない。貢がないと、女性に相手にされないんじゃないかって……」
「今はまだそれが分からなくていい。そう思えなくていい。
でもな、一つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「貢いでいるとき、どういう気持ちだった?」
「…え?そりゃあ、喜んでもらえて嬉しかったです…」
「本当か?」
「……」
「純粋に嬉しいっていう気持ちだけだったか?」
「それは……。
貢ぐのをやめたら振られるんじゃないかって、怖かったです…。あと、どこかでみじめな気持ちも感じていました」
「なぜ、みじめだと感じるか分かるか?」
「……」
「そんなことしなくていいって、もっと自分の価値を信じていいって、本当のお前は知っているからだよ。みじめな気持ちっていうのは、それをお前に教えてくれている」
「……」
「今はまだ俺の言っていることが分からなくていい。
300万円貢ぐ。
そんなことをしてしまうのも、人間ってもんだ。いいじゃねえか。
今日は飲め。いつもなら相談が終われば帰らせるんだがな。特別に付き合ってやる」
その後も、二人で飲み続けた。
一緒に飲めば飲むほど、男が嫌な奴ではなく、本当にいい奴なのだということが分かってくる。
それにしても。
普通のサラリーマンが、300万か。
くたびれたスーツ、使い古したカバン、そして、どこか疲れた男の表情が目に入る。
何かこみ上げてくるものを感じ、それをごまかすために私は、大して飲めもしない酒を飲み続けていた。
「人生で大切なこと」をストーリー形式で面白く学べる「ハードボイルド物語」記事はこちらから全て読めます。
どうしても達成したいことがある、恋愛を成就させたい、自信を持ちたい、自分が望むライフスタイルを手に入れたいという、自分の可能性を信じる人に向けた限定のメルマガも書いています。無料なのでよければ。
大好評!最新刊『毎日15分自分と向き合えば、「欲しい結果」がついてくる』