<この物語はフィクションです>
「なぜだか分からないのですが、モヤモヤするんです」
そんな相談から始まり、かれこれ1時間くらいは喋っていた。
話せば分かる。
男は、優秀で、さらに努力家だった。自然に仕事をしたいと思い、仕事の能力を高めたいと自然に思っている。
「お前にとって重要なことは、周りの期待を裏切ることだな」
「どういう意味ですか?」
「もっと仕事をしろってことだ。でないと、お前は腐っちまう」
「でも、仕事のしすぎは良くない気が…」
「誰が言った?そんなこと」
「誰がってことはないのですが、そんな気がするんです」
「お前は本当は仕事をしたいのに、自分でそれを止めているから、モヤモヤするんだよ」
おそらく、周りの同調圧力のようなものにやられているんだろう。
自分は仕事がしたいのに、仕事をすることが悪いことであるかのような価値観の人間関係の中で埋もれてしまっている。
こいつは本来、そこそこで終わるような人物ではないと強く感じていた。
しかし、今のままいけば、そこそこのまま終わるだろう。
素晴らしい才能は、埋もれたままになる。
そして、男はモヤモヤを抱えたまま、自分を無理やり説得しながら生きることになりかねなかった。
もちろん、仕事に全精力を賭ける生き方が「正しい」ということではない。
だが、仕事に全精力を賭けない生き方が「正しい」わけでもない。
要は、自分の気持ちに正直であることが大事なのだ。
この男の場合は、周りの同調圧力が男の才能を錆びつかせている。
「もっと嫌われるようなことをしろ。周りの人間に」
「それは…」
「お前がしたいことをして嫌うような奴には、さっさと嫌われてしまった方がいい。
というか、お前が我慢して、なぜそいつらに合わせなきゃならん?
なぜ、自分が犠牲になるんだ?」
「……」
優しい心の持ち主でもある。自分が犠牲になれば、周りを傷つけずに済む。自分が活躍しなければ、周りが劣等感を持ったり、焦りの気持ちを持たずに済む。
無意識のその気持ちが先に来て、自分を主張することができず、自分本来の姿で毎日を過ごすことができないでいる。
「お前、自分が活躍して、傷つく奴がいることを恐れてるんじゃないか」
男の表情が、変わった。
「いいか、よく聞け。
お前が本当にしたいことをしても、誰も傷つかない。
もし、お前が力を発揮してとやかく言う奴がいたら、無視していい。
もっと力を発揮するんだ。もっと活躍するんだ。
人はな、他人の幸せの責任は取れないんだよ。
お前が活躍して劣等感を抱く奴がいたとしても、放っておけ。
全て、そいつ自身の問題だ」
今まで、自分の本当の気持ちに気づいていなかったのだろう。
男は、人を傷つけないことを望んでいるつもりだった。
だが、心の奥深くでは、人を傷つけると思っていることを、したかったのだ。
人を傷つけると思っていることをして、それでも人が傷つかずに応援してくれることを、望んでいる。
でも、そんなことは信じられない。
自分がしたいことをしたら、人が傷つくと強く信じている。
だから、安易に、自分を犠牲にし続けた。
周りが、自分を主張してもなお、自分を愛してくれるとは信じられなかった。
自分を犠牲にしなければ、自分は愛されないと思っていた。
しかし、男が本当に望んでいるのは、自分を犠牲にしないこと。
自分が自分を犠牲にせず思うように生きてなお、周りがそれを認めてくれることだ。
男は、目に涙を溜めていた。
ずっと心の奥底にしまい込み続けた本音が、引き出されつつある。
あと、もう少しだ。
一息入れるために、マスターにビールを注文した。
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