<この物語はフィクションです>
午前中の執筆を終え、昼飯取るために外に出ていた。
今日は、天気がいい。外に出て体を動かすのも悪くない。そんな気持ちにさせるような日だ。
しかし、そんなことは言っていられなかった。締め切りが迫っている。
執筆の調子も良く、このペースを保ちたい。昼飯を食ったら、すぐに執筆に戻るつもりだった。
1週間に1回程度の頻度で通ううどん屋に入ろうとしたとき、前方に、見覚えのある少年が目に入った。
「あ、おっさん」
「お前、あのときの」
「久しぶりじゃん!あ、コーラをおごらないと。でも、今日はダメだ。散歩中だから」
少年は、犬を連れていた。
小型犬と中型犬のちょうど間くらいの大きさ。茶色の毛をしたどこにでもいそうな犬だった。犬種は、雑種か。
「こいつは、マイケル」
「マイケル?マイケルには見えんな」
「太郎とか、ポチとか、そんな感じだと思ったんでしょ。おっさん、頭固すぎ。そういうの、嫌なんだよね。マイケルっぽくないマイケル。それが、本物のマイケルなんだよ」
「意味が分からん」
「だろうね」
話していると、前から少年と同じ年くらいの男の子が歩いてきた。その子も、犬をつれている。
「お前、アキラじゃねえか」
「あ、誰かと思えば、タケルじゃん!」
「お前も、散歩中か」
アキラの犬は、ドーベルマンだった。まだ子供で、マイケルよりも小さい。
「そうだよ。ジョーっていうんだよ。30万もしたよお。血統書もついてる。タケルの犬は…」
「マイケルさ」
「マイケル??」
「そのくだりはもういい」
「マイケルは、柴犬?」
「雑種だよ」
「雑種!?マジ!?いくら?」
「まあ、1億円くらいかな」
「うそつけ!お前の家にそんな金あるわけないだろ!」
「うそじゃねえよ」
「どこで買ったか言ってみろよ!」
「拾ったんだよ。捨てられてた」
「じゃあ、タダじゃないか!うそつきやろう!1億円なんて、誰が決めたんだよ!」
「俺だよ。俺が決めた」
「ぷ!お前が決めた値段なんてどうでもいいの!」
「じゃあ、お前のペットの値段を決めたのは誰なんだよ?」
「そ、それは…。ペットショップの店員さんだよ!たぶん」
「俺が決めるのと、ペットショップの店員が決めるのと、何が違うってんだよ?」
「全然ちがうよ!!」
「どこが?」
「どこがって…」
「どこが違うんだ?教えてくれよ」
「う、うるさい!!とにかく、俺のペットは価値がある!高かったんだから!でも、お前のには価値はない。ただの捨て犬だろ!」
「てめえ」
タケルが、アキラに向かっていく。
「待て」
「とめんなよ、おっさん。マイケルを侮辱されて、黙ってるわけにはいかない」
「そりゃそうだ。だがな、アキラには分かっていないことを、お前は分かっている。ただそれだけのことだ。
アキラに何か言われて、マイケルの価値が変わるのか?」
「変わるわけねえ。マイケルはマイケルだ」
「だろう?ここでお前がアキラの挑発に乗れば、お前はアキラと同じところまで落ちてしまうことになる。
相手にしないということの意味を、お前は分かっているはずだ。
殴って、どうなる。もし殴れば、アキラはお前を恨むだろう。反応すれば反応するほど、お前はいざこざに巻き込まれていく。それが自分にとって望ましいことか、よく考えてみろ。
お前の気持ちが間違っているわけじゃない。むかつくのは当然だ。だが、アキラをよく見ろ。アキラがとらわれているものをよく見ろ。それは、アキラ本人ではない」
「…」
「な、なんだよ。ビビってんのかよ。俺はいつでもやれるぜ」
「前にベソかいたことを忘れたか」
「ひっ…!…あ、おい、ジョー、どこ行くんだよ!」
ジョーが、てくてくと歩いて、マイケルに近づいていく。
マイケルもジョーに歩み寄り、二匹は仲良くじゃれ合い始めた。
「アキラ君」
「何?」
「ジョーに、たくさんのことを教えてもらえそうだな」
「何言っているの?これから俺が教えてやるんだよ。お手とか、おすわりとか、伏せとか…いろいろ!」
「まあ、そうだね。でも、犬からも何かを学べるかもしれない」
「バカなんだよ、アキラは」
「なんだよ!」
「タケル、アキラどうこうというより、お前の意識が高すぎるだけだ」
「…」
「ふん!あームカついた!俺もう、行くから。いくぞ、ジョー!」
ジョーはまだ、マイケルとじゃれ合っていた。
アキラに引っ張られ、ジョーは渋々、マイケルから離れていく。
マイケルは静かに、ジョーを見送っていた。
「マイケルは、いい犬だ」
「当たり前だろ」
アキラは足早に去って行ったが、ジョーは、何度も何度も、チラチラと後ろを振り返っていた。
「ジョーも、いい犬だ」
「…当たり前だよ」
いけじゅんBAR第2回も好評です!
:いけじゅんBAR第2回「なぜ、大きな目標はあるのに行動できないのか?」
たくさんの高評価をいただいています。ありがとうございます^^
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