愛犬と暮らすためだけに軽井沢に移住した、作家馳星周が教えてくれたこと。

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新幹線に乗ることが多い。

新幹線内では、本を読む、思索にふける、映画を観る、寝るのどれか。

そのときは小説を読もうと思って、品川駅構内の本屋で物色していた。

そこで目に付いた本が「ラフ・アンド・タフ」という小説。文庫版。

どうしようもない奴だった一人の男が、ひょんなことから出会った女と子供に人生初めてとも言えるような愛情を抱くようになり、不器用に守り抜いていくというハードボイルド小説。

一気に読めてしまったことから作家に興味を抱き、ネットで他の作品を調べた。

 

作家の名は、馳星周。

 

初めて知った人だったけれど、多くの本を出版していて、どれもハードボイルド、ノワールと呼ばれるジャンルの本だった。

ただ、そこに異色の本があった。

 

「走ろうぜ、マージ」

 

というタイトルで、犬の絵が載っている。

ハードボイルドとは似ても似つかない本。

気になったので本の詳細を調べて見ると、どうやら馳星周氏は大の犬好きで、その本は「マージ」という愛犬との日々を綴ったノンフィクション。

マージは年老いていて、ガンを患っていた。

冒頭、こう記されている。

 

なにより辛いのは、なにがあっても散歩に行きたがるマージが、しかし、いざ散歩に出ると、あまり歩きたがらなくなったことだ。よたよたと歩き、立ち止まり、じっとわたしを見つめる。「もう帰ろう」マージはそう訴えている。その巨体をしなやかにくねらせ、時に軽やかに駆けていた面影はどこにもない。くたびれた犬が悲しげに頭を垂れている。わたしと共に11年の歳月を歩んできた彼女が、遠くに旅立とうとしている。

 

馳氏は、そんなマージのために軽井沢へ移住することを決める。

東京の空気よりも軽井沢の空気、軽井沢という開放感のある土地の方がガンの進行も遅れ、良くなるのではないか。

マージとの最後の時間を軽井沢で過ごしたい。

そんな思いから、愛犬のためだけに軽井沢に移住する。

本書を読んでいると、馳氏のマージへの深い愛情が伝わって来る。

 

マージが愛おしい。マージはわたしの伴侶だ。常にわたしと共にあり、常にわたしを愛し、わたしの愛を望み、常に変わらぬ忠誠心を持ち続け、常にわたしを見つめてくれてきた。わたしが長く家を留守にすれば、食が細り、下痢をした。わたしが家に戻ると、その太く長い尻尾で廊下にあるものを薙ぎ倒しながら喜んでくれた。わたしに叱られればうなだれ、褒められれば目を輝かせた。

しかし、彼女はいつか逝く。わたしは彼女の忠誠に応えてやりたい。考えるのはそれだけだ。彼女が逝くその瞬間までそばにいて、おまえを愛しているよと伝えてやりたい。おまえの苦しみはおれの苦しみだ、おまえの喜びはおれの喜びだ。そう教えてやりたい。おまえはひとりで逝くのではない、おれの魂の一部と一緒に違う世界に旅立つのだと分からせてやりたい。

 

この本から伝わって来ることは、人は自分にとって大切なことを大切にすればいい、ということだ。

馳氏が幸せなのは、自分にとって何が大切なのかを深く自覚し、そして実際に人生の時間をその大切なもののために使えていること。

社会の基準や、周囲の人の価値観や期待。

そういったものではなく、自分にとって大事なものを大事にしている。

自分の大事なものに全力で時間とエネルギーを使うことに一切の躊躇がない。

周りの目を気にし、周りに気に入られよう認められようとしているときは、馳氏のような時間の使い方は難しいように思う。

 

軽井沢で愛犬と過ごすと聞けば、その表面だけを切り取って「優雅で、周りから憧れられる生活でいいなあ」と見る人もいるかもしれない。

そういう風に周りに「優雅な生活をしている自分」だと思ってもらいたいがための移住は、多分楽しくないだろう。どこか満たされない日々が続くはずだ。

 

本当に大切なものを大切にできている人は、結果的に人から憧れられる日々を送ることになっているのかもしれないけれど、本人にとってそんなことは関係なく、ただ普通に幸せな日々を生きているんだろうなあと思う。

 

大事なことは、自分にとって大切なものは何なのかを自覚し、その大切なものに時間とエネルギーを使うこと。

「走ろうぜ、マージ」はそんなことを教えてくれる一冊だった。

 

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本も出版しています。

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『自分の武器を見つける技術』2015年12月発売。発売1週間で増刷!

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オンライン人生相談BAR「いけじゅんBAR」もやってます。

いけじゅんBAR第2回「なぜ、大きな目標はあるのに行動できないのか?」

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