能力が高く全て計算済みの男の人生が、計算通りには行かない理由

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<この物語はフィクションです>

 

全てが作り物に見える男だった。

作り物男が、4人組の中心人物らしい。

男2人女2人の4人組は、20分ほど前にバーにやってきた。

私の横の席に陣取り、会社内の話や恋愛の話などで盛り上がっていた。

中心人物は、不自然なほど「中心人物」だった。

「課長」と呼ばれるその男は、周囲への気配りも忘れず、話は真剣に聞き、笑顔を絶やさない。共感するときの表情などは、「共感のお手本」のような顔をしていた。

本当に共感しているのかは分からないが、頭の切れる男なのだということはよく分かった。

個人的にはどうしてもその男のことは好きになれず、信頼もできず、どこか怖いものを感じていたが、周囲の人間たちはそんなことは感じていないらしい。

「課長ってやっぱり素晴らしい人ですよね」という言葉が何度か聞こえてきていた。

おそらく「私はあの男は好きではない」などと言えば、非難されるだろう。「何であんなにいい人なのに!」と。

しかし、やはりどこか全てが作り物に見えるのだ。

全てが「計算」されているように見える。

今ここで笑っておけばこうなる、こういう表情をしておくとこうなる、ここでこの発言を、この態度を、ここで笑いを入れて、共感を示すときにはこういう表情をして…

人間誰もが少なからず計算はしている。誰もがそうだ。

しかし、その男が計算をすることで必死に隠そうとしているものが、そのあまりにも計算されすぎた男の姿勢によって、そこまで必死に隠そうとしている奥にあるものはなんなのだと私に思わせる。

だが、その奥にあるものを見ず、感じずにいさえすれば、その男は見本となるような「素晴らしい男」だろう。

「マスター」

「はい」

「あの男、どう思う」

「そうですね…社内でクーデターを起こしそうな男ですね」

「ほう」

「能力はあります。そして、自分に能力があることもよく分かっている。しかし、そういう自負がある分、いつもその自分の能力が十分に認められているとは思えず不満を抱えている。

だからこそ、上司に対してどこか反発心を常に抱えているでしょう。上司が誰かというより「上司という存在そのもの」への反発です。

しかし、力のない段階で上司に反発しても負けは見えていますから、負けが見えるくらいに頭は切れますから、今ああやって社内に自分の「支援者」を作っている。

その支援者の数が十分増えたと判断した段階で、上司に反発し始めるか、上司の悪口を支援者から広めていくでしょう。

最終的には「自分の正義こそが正しい」という理念のもと、会社にとってはやっかいな動きを始めるはずです」

「さすがによく見てるね」

「しかし…」

「何だ?」

「そういったことを全て見抜いている人間も存在するという想像力に欠けることが、あの男の限界です。自分には能力があるという自負が、その限界を作っています」

「奴の周りにも、そんな男がいるのか?」

「あの方たちも、あの上司の方と同じ会社です。そして、彼は彼彼女らの直属の上司であるはずです」

「なるほど…だから、課長か」

あの方がいる限り、課長より上の役職には上がれないと思います」

「能力はあるが、権力を与えすぎるとやっかいなことになる。しかし、能力がある分ある程度の役職を与えないと不満を感じる。その微妙なバランスの中で与えられた「課長」という立場ってことか」

「そうだと思います」

「あの男は、変われないと思うかね?」

「そんなことはないでしょう。彼は、怖れているだけです」

「どうすればいい?」

「自分の闇を直視することです。もし直視しないまま行けば、直視してこなかったその闇に、自分自身が飲み込まれてしまうでしょう」

「なるほどな」

「しかし、それもまた、彼にとっては必要なことなのかもしれませんが」

私とマスターがそんな会話をしている間、男は部下の悩み相談を真剣な顔で聞いていた。

しかしそれも、こういう真剣な顔をしておけば、真剣に話を聞いてくれる上司だと評価されるという判断のもとにその真剣な表情を選択しているだけで、

本当の真剣さは全く伝わっては来なかった。

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