<この物語はフィクションです>
上手いものだな、と思う。だんだんと自分が輪の中から外されていっている。
まあ、場をコントロールする話術や、己の意見を通す強引さのある人間に嫌われてしまえば、こんなものだろう。
話術や強引さに欠ける人間は、ただそれだけの理由で、その場における存在感を失っていくものだ。
自分の場合、強引に自分を中心とすることもできるだろうが、そんなことをしている自分が恥ずかしくなって、実際にはできない。
だが、それができる人間だって世の中にはいる。
最初から、気乗りはしなかった。
小説を書いている人間が一人いれば面白いとでも思ったのだろう。古い友人に誘われ、どんな人間か来るか分からないパーティにのこのこと来てしまった。だが、会場に入った途端、その選択が間違いだったことに気づいた。
薄っぺらい会話が、薄っぺらい笑いと共に繰り広げられていた。
知り合いが一人しかいなかったことから、友人とつながりのある人間たちと時間を過ごすことになったのだが、その場にいる中心人物のことを好きになれなかった。
好きなフリをすることもできなかった。
もっと器用に立ち振る舞える人間であればな、と思った時期もあるが、今はどうしようもないものだと受け入れている。
そして、その気持ちが伝わっただろう。次第に私は会話からも外されていき、その輪の中で浮いた存在になった。
まあ、いつものことだ。
トイレに行くと言ってその集団から離れ、一人で飲むことにした。
そこに一人の男がやって来た。
さっきの集団の中で、上手く場に溶け込んでいた人間だ。
「あれ、こんなところにいたんですか」
「一人が好きでね」
「そうですか」
「あんたは、戻らないのか」
「少し、休憩です」
さっきまでとは少し違った表情を見せ、雰囲気もどことなく変わっている。
「休憩ね」
「人の機嫌を取ったり、場の雰囲気に合わせるのはそれなりに大変でしょう」
「大変そうには見えなかったけどな」
「そう見せないのが、仕事のようなものですから」
「尊敬するよ、あんたこと。俺にはそういう真似はできない」
「私はあなたを尊敬します。あなたのように、自分に素直にはなれない」
「好き嫌いがすぐに顔に出てしまう、ただのガキさ」
「そういう見方をする人もいるでしょうね。でも、あなたのような人は必要でしょう」
「昔は俺だって頑張ったんだぜ。でも、できなかった。そのときは悲しみに暮れたもんだ」
「本当ですか」
男は笑いながら言った。
「本当だ。自分はダメだな、と責めた時期も長かった。だから、あんたことを尊敬する」
「そんなことで尊敬されてもね」
男の笑い方は、さっきまでとは全く違ったものだった。
「また、二人で飲まないか」
「いいですね、ぜひ」
普段人を誘ったりはしないが、自然と言葉が出ている。
「おっと、来たぜ」
さっきの集団が、集団ごと移動して、こちらに向かってきている。
「おうおう、大移動だな」
「そろそろ、戻ります」
「その方がいい」
「では」
「またな」
男は、物腰低く、集団の中に戻って行く。
こういう人間に出会えるのなら、パーティに出て行くのも悪くはないと思えた。
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