「ここに、相談に乗ってくれるおじさんがいるって聞いたんだけど」
「マスター、そんなおじさんいたか?」
「さあ。先日、そんな場面を見たような気もしますが」
「俺か」
「ねえ、私の相談にも乗ってよ」
「いつから俺は人の相談に乗るような人間になったんだろうな」
「子供が勉強しないのよ」
「子供ってのは、遊ぶもんだろう」
「周りは毎日やってるっていうのに、うちの子だけ全然勉強しなくてね。困ってるのよ」
「なぜあんたが困るんだ?困るかどうかは子供が決めることじゃないのか?」
「何言っているのよ。私の子なのよ」
「私の子ねえ」
「どうしたらこの問題が解決されるのか教えて。深刻な問題なの」
「社交ダンスにでも行ったらどうだ?」
「ふざけてるの?」
「悪かったよ、料理教室でもいい」
「真面目に答えてくれない?」
「大真面目さ。俺以上に真面目な男はそうはいない」
「なぜ私が社交ダンスや料理教室に行かないといけないのよ。これは、息子の問題なのよ」
「子供が勉強しないことを問題だと思っている、あんたの問題じゃないのか?」
「私、あなたのこと好きじゃないわ」
「安心してくれ、俺もさ」
「帰る」
「どうぞ」
………
「やはり、ああいう親が多いのかな」
「おそらく」
「子育てっていうのは、難しそうだ」
「そうですね」
「人生の節目となる大事な場面ではしっかり向き合う。日頃は信頼して、愛を注ぐ。
それだけで上手くいきそうな気もするが、実際に親になってみると、なかなかそれも難しいんだろう」
「それくらい優しい言葉を、直接言うことはないのですね」
「いい人になりたいわけじゃない」
「子供について言えば、
親に従順になり、反発し、受け入れる。そのプロセスを歩むことそのものが大事なのかもしれません」
「もしも、そのプロセスそのものが大事なのだとすると。
あの親を問題だと思う、俺の問題か」
「どうでしょうか」
「そんな気がしてきたな」
「それすら、問題ではないのかもしれませんが」
「敵わんな。あんたには」
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