世の中には、高額なコーチングやキャリア支援を受け、「現状の外側の高いゴール」を設定し、実際にアクションを起こしたにもかかわらず、
心の中が1ミリも楽しくない、むしろ疲弊していくという人が少なくありません。
「行動はできた。多少結果も出た。なのに、やりたくない、苦しい……」
これは決して、受講者の努力不足やモチベーションの低さが原因ではありません。
実は、現代のコーチングが構造的に抱えている「2つの限界」による必然的な結果なのです。
今回の記事では、成果と引き換えに心をすり減らしてしまう構造の裏側と、コーチングが「プログラム化・マニュアル化」されることで起きる弊害について、深く掘り下げていきます。
「強み」と「重荷」を混同させる構造的限界
例えば、多くのキャリアコーチングでは、「無意識にやってしまう得意なこと」をあなたの強みとして特定し、それを生かして未来のゴール(目標)を設定します。
しかし、ここに1つ目の大きな盲点があります。
それは、「無意識にやってしまうこと」が、本当に自分がやりたいこと(価値観)ではなく、
過去の恐れや不安から生き延びるために発達した「脳の神経回路(防衛本能)」であるケースもあり得るということです。
ここの見極めは非常に繊細で深い領域であるため、キャリアコーチの専門領域から外れています。
結果、そこの判断がうまくできないことがあります。
たとえば、子供の頃の機能不全な家庭環境や人間関係のトラウマから、
「常に周りの空気を読み、人の機嫌を察知し、相手の求める期待に完璧に応える計画を立てて具現化する」
という行動を無意識に取ってしまう人がいます。
これは脳の神経回路が人一倍使われてきたため、客観的には圧倒的な「得意分野」に見えます。
しかし、その根底にある動機は「そうせざるを得なかった恐怖」や「義務感」です。
この背景を無視したまま、
「それがあなたの強みだから、それを武器にして未来の目標に突き進もう!」
とアクセルを踏ませてしまうことがあります。
さらに、結果だけが成果の評価基準になってしまっていることも多いです。
その場合、メンタルはいつも『結果』を気にするようになり、
特に自己肯定感が低い状態である場合、結果に一喜一憂することでメンタルが非常に悪化します。
「コーチングを受けている期間中、実は日常生活ではすごく感情状態が悪い。結果は多少出せたけど、日々が苦しかった」
そういったことの原因になります。
その場合、キャリアや成果という意味では効果があったとしても、
家族や恋人に負担をかけることになったり、関係が悪化したり、子育てに悪影響が出たりするなど、人生のバランスが崩れます。
未来の目標から現在へ逆算する「逆算思考」を強く求めるため、日々の行動がプレッシャー(重荷)に変わってしまいます。
これは決して受講者が悪いわけではなく、そもそもの構造から生まれる問題です。
そもそも喜びには、
・結果型の喜び: 数字や評価、目標達成を喜ぶ
・それ自体型の喜び: 誰かと協力するプロセスや、好きな空間に触れること、行為自体に充足感を得る
の2つがあり、2つとも重要です。
結果を重視しすぎるあまり、【それ自体型の喜び(価値観)】をすっぽり置き去りにし、【結果型の楽しみ】へと追い立てる構造。
これこそが、「多少結果は出ても、全く楽しくないし疲弊する」という現象を生み出す正体です。
【マニュアル化の悲劇】流派の枠にクライアントをはめ込む
2つ目の限界は、提供されるサービスの「プログラム化・マニュアル化」にあります。
現在、多くのコーチングスクールや組織では、均質なサービスをスケールさせるために、しっかりしたメソッドやマニュアルが用意されています。
しかし、そのしっかりしたメソッドやマニュアルこそが、逆にクライアントを苦しめる障壁となります。
マニュアル化されたサービスは、「そのメソッド(流派)の枠組みの中にある問題解決法」しか提供できません。
たとえば、アドラー心理学ベースの流派、認知科学ベースの流派(コンフォートゾーンや臨場感、現状を超えたゴール設定などを扱うもの)など、それぞれに正義(理論)があります。
しかし、クライアントの人生の課題がその流派の想定外の領域にあったときでも、コーチはマニュアルの枠から出られません。
その組織に属しているわけですから、そこで提供されているマニュアルにない内容は伝えることができないし、扱うことが許されていないからです。
未来のゴール設定で現実が動かないのは、過去の傷(自己肯定感や自己受容)のフェーズを扱う必要があるから。
逆に、過去の感情ばかりを扱っていても、目の前の「フリーランスとしてどうやって仕事を取るか」という現実的なキャリア形成のフェーズには進めない。
本来、人間のメンタルやキャリアは「過去(カウンセリング領域)」と「未来・行動(コーチング領域)」を横断しながら、その時々のグラデーションに合わせてオーダーメイドで扱うべきものです。
しかし、マニュアルに縛られたコーチは、クライアントが違和感を訴えても、
「高いゴールへの臨場感が足りないからだ」
「現状維持のバイアスが働いているだけだ」と、
自分たちのメソッドにクライアントの感情を無理やり当てはめようとします。
クライアントの中で起こっている問題を純粋に見ることができず、
自分たちのメソッドというフィルターで判断してしまうことで、問題の本質を見誤ってしまうのです。
そうなると、クライアントは心からの納得感を持って進むことができません。
違和感、本当にこれでいいのか感を抱えることになります。
結果として、セッションの時間はコーチの言う通りに脳内が刺激されて「そうなのかな」と元気になるものの、
現実世界に戻った瞬間、問題が解決されていないことに気づき、苦しくなってしまうのです。
サービス自体がコンフォートゾーンになり、メンタルと現実世界が全然変わらないという本末転倒な事態は、この「無意識のマニュアルの押し付け」から生まれます。
今、本当に必要なアプローチ
未来と結果だけを追うコーチングでは心が死んでしまう。
かといって、過去の感情だけを掘り下げるカウンセリングでは現実のキャリアが前に進まない。
多くの人にとって本当に必要なのは、そのどちらか一方に偏ったマニュアルではなく、
「自己受容(根本的なメンタルの土台)」と「キャリア(現実の行動デザイン)」を両輪で横断できる統合的アプローチです。
自分の過去の思考の癖を認め、地に足のついた自己評価(自己肯定感)を育てた上で、自分の「やりたいこと(価値観のエッセンス)」を現実の仕事に活かし願望実現していくこと。
流派の枠組みにあなたを合わせるのではなく、あなたの現実世界でのフィジカルな体験とデータを踏まえてメンタルを改善向上させていく。
それこそが、ブレーキとアクセルを同時に踏み続ける疲弊のループから抜け出し、心から納得できるキャリアを形成するための方法です。
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