※この記事は、これらの記事の続きです
頭の中ではいつでもヒーローだった男、現実を動かす
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<この物語はフィクションです>
再びやって来た若者は、努めて明るく振舞おうとしていたが、傷ついた心の全てを隠し切ることはできていなかった。
ふと見せる表情の中に、悲しさとも寂しさとも取りうる微妙な心情が滲み出ている。
「振られたか」
私は、あえてストレートな言葉で若者に声をかけた。
「振られました」
「そうか」
映画や漫画の世界では、男が一大決心をすれば、ただ一大決心をしたということだけで、成功が確約されたりする。
いよいよクライマックスという空気になり、男は持っていた力を全て発揮して、何かを成し遂げるのだ。
しかし、現実はそうはならないことだってある。
一大決心をしたところで、それに伴う実力がなければ、その決心は結果を確約しない。
現実は、映画とも漫画とも違うのだ。
だが、それは経験してみなければ分からない。
一大決心をして行動を起こさないことには、現実の己の力を知ることはできない。
だからこそ、一大決心をすれば自分の力が発揮されて成功すると思っていたことが成功しない経験をすることも、必要なことなのだと思っていた。
その経験をすることで人は己と向き合い始め、日々の行動が変わり始める。
つまり、問題はここからだ。
男は、女に振られると思いのほかダメージを受ける。
現実に実力があるわけでもないのに自己評価だけは高いタイプになると、その事実を必要以上に重く受け止め、深く落ち込んでしまうこともある。
その場合、女に振られたことが悲しいというよりも、女に振られるという事実を屈辱的に捉え、己の劣等感が刺激されて苦しむことになる。
女と一緒にいられないのが苦しいのではない。女に振られたことで傷ついた自尊心に苦しむのだ。
この若者は、そう捉えるであろう素養を持っていた。
客観的に見れば、26歳のコンビニアルバイトと進んで付き合おうとする女性はあまりいないだろう。
この若者は、コミュニケーション能力が高いわけでもない。
強すぎる自意識が邪魔をしていて、むしろ低いと言ってもいい。
事実かどうかは別として、男としての力が足りないと判断されても仕方ない。
中身など、見てもらえない。
それが現実だ。その現実を否定しても、悲観しても、逃避しても、意味はない。その現実の中で生きていくしかないのだ。
自分のことを客観的に捉える機会となった今回の出来事を、この若者がどう捉え、今後、どう生きていこうとするか。
この若者にとって、重要な場面であるような気がしていた。
そう思っていると、若者がつぶやくように言った。
「どうせ俺なんて…」
そう、来たか。
ふと顔を上げると、マスターがこちらを見ている。
目を合わせただけで、マスターが私と同じことを思っていることが分かった。
今夜は、長くなる。
そう確信した私は、ウイスキーの水割りを注文した。
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