好きだった女に振られた。
1ヶ月前、気になっていたTUTAYAで働く女の子に話しかけ、その場で気持ちを伝えた。相手は、ただただ驚いていた。今思えば、それも当然だ。いきなりお客に告白されれば、驚き、困るだろう。
その当時の自分は、ただ自分の気持ちを伝えることに精一杯で、相手の気持ちを考える余裕などなかった。
女に振られたことに傷ついたというよりも、自分のダメさ加減を痛感させられたことで落ち込んでいた。
やっぱり自分はダメなのか。どうせ自分に彼女はできないのではないか。
そんな思いが、頭から離れなかった。
その日、1ヶ月ぶりに訪れたバーのいつもの席に、男はいた。
1ヶ月前、振られた直後に訪れたとき、この男はただただ話を聞いてくれたのだった。
「おう、久しぶりだな。癒えたか、心の傷は」
「なんとか」
「まあ、今まで傷つくことを避けるために何もしなかった男がいきなり行動を起こし、見事に失敗したのだから、それなりに傷ついてもおかしくはない」
「自分はダメだな、って今でも思いますよ」
「素晴らしいことじゃないか」
「え?」
「行動して、失敗して、できなくて、そんな自分をダメだと思う。
それは、行動したからだ。
世の中には、失敗することすらできない人間が山のようにいる。
比べる必要はないが、お前はそいつらとは違い、大きな一歩を踏み出したんだよ。
自分を責める気持ちは分かるが、実は責める必要はない。
お前は前に進んだんだ。
むしろ、自分を褒めるべきだ」
「そう考えれば、確かにそうかもしれませんね…。って、なんでそれを振られたときに言ってくれなかったんですか?」
「俺はひどい男だからさ。自分に絶望するっていうのも、たまには悪くないじゃないか」
「悪いですよ…」
「自分を責めて得られたことはあったか?」
「得られたことですか…あるのかな」
「ないか?」
「…ない、かもしれません」
「そうか。なら、もう自分を責めるのはやめることだ」
「…」
「自分を責めて得られることがあるとすれば、自分を責めても何も良くはならないことに気づくことさ」
「そうなのかもしれません」
「さて、これからどうする?」
「これから?」
「ああ。彼女なしのコンビニアルバイトを一生続けるつもりか?」
「そのつもりはないですけど…」
「ではどうする?」
「どうするって言われても、どうすればいいか分からないです」
「まあ今のお前なら、そうなるだろうと思っていた」
「どうすればいいんですか?」
「自分と、今の時代や環境を良く知ることだな。お前は、あまりにも知らないことが多すぎる」
「どういうことですか?」
「今日はもう話し疲れた。俺は一人で飲むことにする。マスター、ビールを。今日はもう話さんからな。飲みたいなら一人で飲んでろ。帰りたきゃ、帰れ。俺はお前のママじゃない」
そう言うと、男は本当に俺を無視して一人で飲み始めた。
ただ、確かに金を払っているわけでもないのにこの男は話を聞いてくれるし、言うことも的確で、学ばせてもらっていることも多い。
この男が話したくないと言うのなら、帰るべきだろう。
マスターに勘定を渡すとき、男の分の勘定も払った。
「余計なことはしなくていい」
「俺が好きで勝手にやっているだけですよ。あなたに感謝されたくてやってるんじゃない。俺はあなたの分も払いますが、自分で払いたいなら払ってください。俺が払った余り分は、マスターの飲み代ということにしておきますから。俺はあなたに感謝されたいわけではないけど、あなたに感謝してるんですよ」
「勝手にしろ」
「また、来ます」
男は何も言わなかった。何も言わないということは、来てもいいということなのだろう。
次に来るときまで、男が言った言葉について考えておくことにした。
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