<この物語はフィクションです>
男の悩みは、「リーダーになれなかった」ことだった。
社内でとあるプロジェクトが立ち上がり、そのプロジェクトのリーダーを決定することになった。
リーダーを決定するのは、この男の上司。
何としてもリーダーになりたかったこの男は、上司に直接「リーダーになりたい」旨を伝えた。それは、やる気があることを示すための行動だったのだと、男は言う。
しかし、結果的にプロジェクトリーダーに選ばれたのは、自分よりも若い男だった。
上司曰く、年齢など関係ないらしい。つまり、実力主義だということだろう。当然、このご時世どこも実力のない者にリーダーをやらせている余裕などない。
おそらくこの男の上司も、リーダーをやりたいと言ったこの男をリーダーにしなければ、この男から不平不満が出ることは分かっていたはずだ。
それでも尚、この男をリーダーにはしなかった。その面倒を被ってでも、違う男をリーダーにしたのだ。その事実は、それなりの重さを持っている。
そして、実際にバーに来て、リーダーになれなかったことをこの男は嘆き、不平不満を述べている。
そんな男の姿を見て、上司の決断は正しかったと思わざるを得なかった。
もしこの男をリーダーにしていれば、おそらくプロジェクトは失敗しただろう。この男よりも、この男の上司に会ってみたい。そんなことを思ってしまっている自分もいた。
「ねえ、僕の話、聞いていますか?」
「え、ああ。もちろん聞いている」
「なぜ、うちの上司は俺にリーダーをやらせてくれなかったんでしょうかね」
「お前が、リーダーをやりたいと言い始めたからじゃないか」
「どういうことですか?」
「リーダーってのは、なりたくてなれるもんじゃないだろう。リーダーになるべき奴が、リーダーになる。ただそれだけのことだ」
「よくわかりません」
「当たり前だ。分かっていたらお前がリーダーになっている。分かっていないからお前はリーダーじゃないんだ」
「そんな…」
「リーダーになってはいけない奴がリーダーになる組織など、じき潰れる。居るべきじゃない奴は、そこに居てはいけないんだ」
「俺はリーダーになるべきじゃないってことですか?」
「まあ、言ってしまえば、そういうことだ。
リーダーになる奴ってのは、別にリーダーじゃなくても構わないが、自分がリーダーになることがチームにとって最良だと客観的に見て判断しているような奴だろう。
リーダーを何がなんでも無理やりやろうとしている時点で、お前はリーダーじゃない」
「でも、なりたいんですよ。リーダーに」
「何のために?」
「…何のためって。それは…理由なんてないですよ」
「いいや、あるね。見えていないだけだ。
お前にまだ見えていない、お前がリーダーになりたい理由が、お前の上司には見えている。だから、お前は選ばれなかった」
「俺が悪いってことですか?」
「悪いというよりも、今回起こったことは至極真っ当だったということだろう」
「……」
「俺に共感してもらい慰められるために来たんだろうが、当てが外れたな」
「いつもこうなんですか?」
「そんなことはない。
おそらく、お前の周りにはお前を慰める奴らがたくさんいるんだろうと思ってな。
そういう奴らの言葉ばかり聞いていたら、お前はダメになるかもしれん」
その後、男は不満気な顔をして立て続けにビールを飲み、そのまま帰っていった。
この後、男はどうなるか。そこまでは分からなかった。
「あの方の上司…」
カクテルを作りながら、やり取りをカウンター越しに聞いていたマスターが口を開く。
「たまに一人でこの店に来ますよ」
「本当か?」
「一度、話したことがあります。まあ、滅多に来ませんが」
「会ってみたいもんだな」
「そのときは、紹介させていただきます」
自宅に帰ると、色々と考えてしまいそうだ。
今日は遅くまでマスターに付き合ってもらうしかない。
「よろしく頼むよ」
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