<この物語はフィクションです>
男は、バーに似合わないみずぼらしい格好をしていた。Tシャツは首元がだらしなく伸びており、履いているズボンはブカブカ。靴も汚く、髪もボサボサだ。それはまあどうでもいいんだが、やっかいなのは、放っておいてくれればいいものを、その男がわざわざ絡んできたことだ。
「一人かい」
「まあな。あんたも一人のようだ」
「友人はほとんどいないんでね」
「余計なお世話だが、その見た目じゃあ、誰も寄りつかんだろう」
「見た目なんて、気にしてたまるかってんだ。あんなもの、自分をよく見せるためのものでしかない」
「まあ、そうかもな」
「あんたも、いい腕時計してんじゃねえか。そういうものをつけて、自分の価値が上がったとでも思ってんだろう?」
「そうかもしれん」
「くだらねえ。そんなの、バカがすることなんだよ」
「そうだな。ただ、一つ思ったんだが」
「なんだ」
「あんたにとって、オシャレが自分をよく見せるため、価値を上げるためのものであるなら」
「…」
「オシャレをしないことが、あんたにとってのオシャレなんじゃないか?」
「ど、どういうことだよ」
「あんたがしていることは、オシャレをしている人間と本質的には何も変わらないということさ。
オシャレをしないことで、オシャレする人間をバカにすることで、自分を上にしようとしている」
「わ、分からんね。何を言っているのか」
「…そうだな。悪かった。出過ぎた真似をしたよ」
「あんた、もしかしてオレをバカにしているのか?謝れよ!おい!やるか!」
「悪かった。悪気はないんだ」
「気分悪いから、オレは行くぜ。マスター、勘定!」
「はい」
男は、イライラしながら店を出た。男をイライラさせてしまった自分は、まだまだ未熟な人間だと思わざるを得ない。
「マスター、悪かったな。せっかくの客を帰らせちまった。今日は、たくさん飲むよ」
「いいんですよ。それより」
「何だ」
「その時計、以前に、誰かにいただいたものだとおっしゃっていませんでしたか?」
「そうだ。こんな派手な時計選びやがってな」
「それをずっとつけていらっしゃるんですね」
「つけないわけには、いかないだろう」
「そうですね」
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